マンションという商品のリ・インベンション ~マンションに期待される機能の変化(理事長 西澤一二)

<不動産経済研究所の定期刊行誌「不動産FAX-LINE」に寄稿したものを転載しました。>

●土地の有効利用から生まれた、マンションという居住形態
コンクリート製の中高層住宅、すなわちマンションは、高度成長期に地方から都会への人の移動に伴い不足する住宅を確保するため、土地を有効活用する手段として生まれた。言い方を変えれば、マンションができたことで、価格の高い土地をシェアすることができ、勤労者世帯が通勤利便性の高い立地に住まうことが可能になったといえる。

すなわち、集合住宅の根本的な存在意義は、土地を高度利用しシェアすることであり、購入者の負担するコストの低減をはかるということであろう。そのため、土地単価の安い地方部また郊外部では戸建て住宅が主流であり、都心部でもやはり「いつかは戸建て」という考えが主流であった。

●マンション居住を選択する高齢者
それから約半世紀。マンションという商品が成熟化するとともに、設備や間取り、居住性能等において各段に進化してきたが、その志向するものはやはり利便性であり、昨今立地志向はより強くなっている。容積率の高い商業地区に高層タワーマンションが立ち並ぶのもその一例である。しかしながら、高度成長に伴い人口が増加していた時代と、現在のように人口が減少に向かう時代において、その存在意義に変化はないのだろうか。

築年数の経った中古マンションにおいて、同じような立地条件でもその人気に大きな差があることがある。ほとんどの場合その要因は、そのマンションにおけるコミュニティの状態にある。居住者の年齢層、経済状況、居住目的などがある程度似通っており、良好なコミュニティが形成されているマンションとそうでないマンションとでは、自ずと不動産としての価値に差が出てきている。超高層のタワーマンションでの居住者間格差の問題等が指摘されて久しい。

また、都心の好立地のマンションの購入者層に変化が生じている。
高齢者の増加である。
「特定非営利活動法人 老いの工学研究所」の調査では、高齢女性の半数、男性の3人に1人が現在の自宅に対して不満を持っている。その内容は、広すぎてあるいは老朽化して管理が大変、段差・階段があるといったハード面に加え、坂道が多い、病院が遠い、買い物が不便といった立地環境面などである。この一面だけをとらえると、郊外の一戸建ての自宅から都心のマンションへの住み替えにより、高齢者の住まいに対する現在の不満は解消されるといえる。

しかし、高齢者が住み替えによって解消すべきなのは、現在の住居についての不満だけではなく、将来に対する不安なのではないか。たとえば、先の見えない経済的な不安、介護や病気などの身体的な不安や孤独などの精神的な不安である。にもかかわらず、当の高齢者自身がこれらの不安をどのように解消すればよいかの具体的な解決策は持ち合わせていない。

私は、シェアをして住むというマンションの機能に、高齢者の不安を解消するカギがあるのではないかと考えている。
つまり、土地のコストだけではなく、共用施設や生活支援に関わる人的コスト等のシェアによって高齢者の不安を解消するということである。生活不便を解消するための大浴場・レストランなどの共用施設のシェア。生活支援スタッフや清掃・管理スタッフ等の人件費のシェア。あるいは、老朽化した戸建てにおける、突発的な修繕費用等のリスク回避や似通った考えの人たちと集まって住むことによるコミュニティの形成など、である。

●期待されるマンションの“リ・インベンション”
成熟した製品においては、知らないうちにそれに対するニーズが変化している場合があり、その潜在的なニーズに着目して製品を再発明することを、神戸大学大学院経営学研究科の三品和広教授は、“リ・インベンション”という言葉で提唱している。
マンションの存在意義を、立地的な利便性と土地のシェアによるコスト低減に限らず、集住することによるコミュニティの創出、共生コストのシェアによる低減、ひいては高齢者の将来不安解消という潜在ニーズへの対応にシフトすれば、マンションという成熟製品のリ・インベンションにつながるのではないだろうか。

そのことにより、高齢者が、長い高齢期を不便な自宅で不安を抱えて過ごした挙句、周りの意見に従って施設に移り住むという、現在の住み替えのパターンから脱却し、「住み替えによって、自らの意思で、できるだけ長い期間、自宅で自立して生活する。」という選択肢ができることを期待している。