西内清美さん(85歳)

あれから一年

福島県南相馬市
相馬野馬追」染物職人・西内染物店
西内清美さん(85歳)昭和7年4月20日生

勇壮な騎馬武者が疾走する「相馬野馬追」。その背中にはためく旗指物を染め上げる職人、西内さんを昨年取材した。その際「最近、手が遅くなってきてね」とふさぎ込む姿を見かけたので、ずっと気になっていた。
旗指物は友禅で染めた後、余分な染料や糊を洗い流すために真冬の川で何十枚もさらさなくてはならない。ご子息の急逝により80代で現役に復帰した西内さんにとっては苛酷な作業で、全身に鍼を打ちながら乗り切っているのが現実だ。西内さんは旗指物から陣羽織や袴などの武者装束一式までを手がける唯一の職人なので、彼が引退・廃業してしまうと一千余年に及ぶ伝統的な神事の存続が危うくなる。そこで再び「相馬野馬追」の日程に合わせて相馬の地に足を踏み入れた。

自宅を訪れるとこちらの心配をよそに到って表情が明るい。なんでも前回の取材がきっかけとなり、次々と取材の申込みが殺到したという。中にはTV番組や観光PRなど長期に及ぶ撮影もあり、悩む暇などないくらい忙しかったそうだ。

「相馬野馬追」当日。東日本大震災で中断、縮小を余儀なくされていたが昨年から完全復活した神事「お行列」、「甲冑競馬」、「神旗争奪戦」を一目見ようと全国から続々と人が集まってきた。
祭り会場に家業である染物店の出店を出していた西村さん。「相馬野馬追」には欠かせない旗指物だが、少なくとも昨年までほとんど注目されることはなかった。しかしメディアの力は絶大だ。旗指物の出店に顔を出していた西内さんに、テレビやCMをみた人たちが口々に「頑張ってください」と激励の握手を求めてくる。なかには記念撮影まで求める人までいた。

いつもは寡黙な西内さんが「取材で紹介してくれたおかげで、今まで見向きもされなかった旗指物が皆さんに知られるようになった。素直に嬉しい。やはり、この仕事は続けないといけない。ここまできた以上、跡継ぎがみつかるまでやる。」と思いのたけを語ってくれた。「相馬野馬追」が終わると抜け殻のようになってしまう姿はそこにはなかった。眼差しには力強いエネルギーさえ宿っていて、次の旗指物の構想も練り始めているという。生業としてきた仕事の存在が広く知られ、その意義や価値を改めて実感した西内さん。再び動き始めた西内さんに、後継者が現れる事を切に願う。

撮影:小山一芳
取材:代田耕一