荒川龍一郎さん、關 廣明さん

荒川龍一郎さん(NPO法人「日本地雷処理を支援する会」理事長
關 廣明さん(同・事務局長)

「この道より、われを生かす道なし。この道を歩く」

定年まで勤め上げ、退職した後に国際貢献をしている「オヤジたち」がいる。いや最高齢70歳というから「じいじたち」と言うべきか。その「オヤジたち」こそ地雷・不発弾処理を通して各国の復興を支援している「日本地雷処理を支援する会」通称JMASに所属する男たちだ。元陸上自衛隊陸将の荒川理事長に活動内容を伺った。
「世界中の紛争跡地には一億発もの地雷・不発弾がとり残されたままです。そういった厳しい環境の中で生活しなくてはならないカンボジアの状況を知った自衛官OBが、自分たちの技術が役に立たないだろうかと2002年に立ち上がり、活動を始めました。今までカンボジア、ラオス、アフガニスタン、アンゴラそしてパラオなどで事業を行ってきました。」JMASの実績数字が、紛争跡地の状況をなによりも物語っている。

地雷・不発弾処理発数   処理面積
カンボジア     306,526発     858,594 ha
ラオス        75,249発      2,904 ha
アフガニスタン    11,295発       248 ha
アンゴラ        186発       159 ha

作業効率や安全性の確保という観点から、地雷を処理する他国のNGOの多くが自己完結型で任務を終え、短期で帰国するなか、JMASは知識と技術が新しい世代に伝わるよう、現地の人々と協力しながら現場で地雷処理を指導・実施することが最大の特徴だ。自立で地域が復興することを支援する能力開発型なので活動は長期間にも及ぶ。
元ラオス現地代表の關(せき)事務局長によれば、専門家(陸上自衛隊の不発弾処理隊勤務時代に鍛え上げた高度な技術と豊富な経験を持ち現地で指導・教育するスタッフをJMASではこう呼ぶ)は、プラスチック型や空中炸裂型の対人地雷あるいはクラスター子弾や長延期信管など近年タチが悪くなりつつある地雷・不発弾に立ち向かう一方で、気候や風土、衛生あるいは現地特有の仕事観など様々な困難を克服しなくてはならないという。
どちらかというと余生は旅行や趣味あるいは孫との時間を楽しみにしているシニアが多いなか、紛争跡地という過酷な環境に彼らを駆り立てるものは一体何だろうか?理事長と事務局長によれば、「現役時代に培った自分の知識や技術を活かして何かの役に立ちたい」という動機が総じて多いようだ。
70歳にして専門家最高齢の中條さんの逸話が凄い。赴任地のラオスで数年前に手足のしびれを感じたので危険と自己判断、いち早く帰国し、検査したら案の定、脳梗塞と判明。入院し即、手術、一命をとりとめたが、回復するや否や、またラオスに帰国(?)してしまったそうだ。気さくな人柄で現地の隊員から信頼され、「いつまでもいて欲しい」と言われ、気がついたらもう8年にもなるという。困っている人たちから「必要とされる」というのもやはり強い動機になるようだ。
印象に残ったのはPKOでカンボジアに派遣されたが、自衛隊の活動がインフラの修復だけに制限され、地雷に倒れる住民を見ているしかなかったことが引き金となり、定年退職3日後にカンボジア行きの飛行機に搭乗していたという専門家の「人生の仕上げの時期に悔いを残したくなかった」という言葉だ。まさに「義を見てせざるは勇なきなり」を実践しているのではないだろうか。
どのような動機にしろ、オヤジ達に共通しているのは、何も特別なことをしているのではなく、今まで自分がやってきたことを信じて、まずコトを起こすという強い意志だ。その強い意志により紛争跡地に赴き、困難を乗り越えて活動するオヤジたちには最高のご褒美が用意されている。前述したようにJMASは現地の住民と共に活動する。共に道を確保し、共に土地を開拓する。安全な環境が整備されれば、そこに人が住みはじめ、作物をつくりはじめる。さらに地雷や不発弾の恐ろしさを教える学校も完成する。最高のご褒美とは、一緒に汗を流して働いた住民が喜ぶ姿あるいは授業がはじまり目をきらきらさせて登校する子供達の姿だ。屈強の「オヤジたち」もこれには一発でノックアウトされてしまうそうだ。
取材を通じて「人生仕上げの時期」を意義深くするためは、現役引退後から特別なことを始めるのでは決してなく、現役時代に仕事に打ちこみ、自分の役割をしっかりと果たすことにあると痛感した。

取材撮影:小山一芳
構成・文:代田耕一
写真提供:JMAS